ジャーナリズムの世界で最も権威があるとされるアメリカの「ピューリッツァー賞」(Pulitzer Prize)。その中でも、最高峰とされる報道部門の「公益賞」(Public Service)の歴代の受賞者の一覧です。2023年までの全記録です。毎年4~5月ごろ発表されます。この賞は、優れた報道やスクープに贈られます。新聞や通信社などが対象となります。コロンビア大学ジャーナリズム大学院が、事務局をしています。(河端哲朗)
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年 | 受賞者 | 報道内容 |
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2024 | プロパブリカ(米国の非営利報道団体) |
米連邦最高裁の保守系判事クラレンス・トーマスに対する巨額接待事件のスクープ。億万長者の保守系活動家が、豪華旅行や個人ジェット機での移動などを提供していた。トーマス判事の家族の私立学校の学費や、住居までプレゼントしていた。この報道を受けて、最高裁は判事の倫理規定(行動規範)を採択した。
アメリカ大統領ランキング(日米学生会議)によると、クラレンス・トーマスは、極貧の黒人家庭に生まれた。米ジョージア州ピンポイントの室内に水道もない共同住宅から、ジョージ・ブッシュ大統領(親のほう)らと同じエール大法律大学院に進んだ。弁護士資格を取得後、共和党ダンフォース上院議員の法律顧問を務めている間に、レーガン前大統領に見いだされ、公正雇用機会委員会(EEOC)の委員長に就任した。その後、ブッシュ大統領によってワシントン連邦高裁判事に指名された。 |
2023 | AP通信 | ロシアの侵攻を受けるウクライナの都市マリウポリからの現地報道。危険な現地に残り、ロシア軍による市民虐殺などを伝えた。マリウポリの副市長はAP通信の報道が「数千人の命を救った」と語った。 |
2022 | ワシントン・ポスト | 米連邦議会の議事堂襲撃事件 |
2021 | ニューヨーク・タイムズ | 新型コロナウイルスの感染拡大で顕在化した人種差別や経済格差、アメリカ政府の失策などを報じた。 |
2020 | アンカレッジ・デイリー・ニューズ(アラスカ州の新聞)
※非営利の報道機関「プロパブリカ」が報道に貢献 |
アラスカ州の田舎の3分の1に、 警察がいない状態になっている。 このため、 性犯罪が横行している。 アラスカ州の性暴力事件の発生率は全米平均の3倍。 さらに、警察がいない地域では州平均のさらに2倍だという。 こうした実態を告発する連載を、1年以上にわたって展開した。 報道の影響により、地元の州政府や議会が措置を講じることとなった。 |
年 | 受賞者 | 報道内容 |
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2019 | 南フロリダ・サン・センティネル | 米フロリダ州パークランドの高校で、2018年2月に起きた元生徒による銃乱射事件。 生徒ら17人が死亡した。 事件の前後における学校や行政の不手際を暴いた。 |
2018 | ニューヨーク・タイムズ(記者2人)及び 雑誌ニューヨーカー(ローナン・ファロー氏) |
アメリカ映画界のセクハラ事件の報道。
ハリウッドの有力者ハーヴェイ・ワインスタインが長年にわたり女優らに性的関係を強要していたことをスクープした。
セクハラを告発する世界的な社会運動「#MeTooムーブメント」の発端の一つとなった。
雑誌ニューヨーカーの報道を担当したローナン・ファロー氏(Ronan Farrow)はフリー・ジャーナリスト。調査報道を得意としている。映画監督ウッディ・アレンの息子。当時30歳。 オバマ政権下で外交などの政策アドバイザーを務めた。 当初、本事件を契約先のテレビ局NBCで報道しようとしたが、却下されたため、雑誌ニューヨーカーに持ち込んだ。 一方、ニューヨーク・タイムズ紙は2人の女性記者が担当した。ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイー。後に、報道の舞台裏が映画化された。タイトルは「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」。 同紙はワインスタイン事件に加えて、保守系ケーブルテレビ「FOXニュース」の人気司会者ビル・オライリーのセクハラ事件をスクープし、 番組降板へと追い込んだ。 ローナン・ファロー氏の著書(英語)→ |
2017 | ニューヨーク・デイリー・ニューズ、プロパブリカ | 少数民族を追い払うために追放規則を濫用するアメリカ警察 |
2016 | AP通信 | インドネシアやタイなど東南アジアの水産会社による強制労働など、水産業界の過酷な労働実態を告発。 |
2015 | ポスト・アンド・クーリエ(米サウスカロライナ州チャールストン) | ドメスティックバイオレンス(DV)についての報道。家庭内暴力に甘いサウスカロライナ州法など事件の背景にある法的、文化的、経済的な要因を探った。 |
2014 | ワシントン・ポスト、ガーディアンUS | エドワード・スノーデン暴露事件 |
2013 | サン・センチネル(米フロリダ州フォートローダーデール) | 警官の職務外での危険な自動車運転についての調査報道 |
2012 | フィラデルフィア・インクワイアラー | 学校内の暴力やいじめについての報道。ビデオ映像を交えて実態を明らかにした。 |
2011 | ロサンゼルス・タイムズ | カリフォルニア州ロサンゼルス郡ベル市の職員(公務員)の過剰な給与支払事件。幹部職員の逮捕につながった。 |
2010 | ブリストル・ヘラルド・クーリエ(米バージニア州ブリストル) | ダニエル・ビルバート記者の報道。バージニア州の天然ガスの地主へのロイヤルティ支払をめぐる不祥事 |
年 | 受賞者 | 報道内容 |
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2009 | ラスベガス・サン(担当:アレクサンドラ・バーゾン記者) | ラスベガスのカジノ街での建設作業員の高い死亡率についての報道。緩すぎる規制の改革につながった。 |
2008 | ワシントン・ポスト | 米バージニア州のウォルター・リード病院で、負傷した退役軍人が粗末に扱われていた事件をスクープ。連邦政府による改革のきっかけとなった。担当:ダナ・プリースト記者、アン・ハル記者、Michel du Cille(カメラマン) |
2007 | ウォール・ストリート・ジャーナル | ストック・オプションの権利の付与日を操作する米国企業幹部の「バックデート操作」をめぐるスクープ。多数の関係者を辞任に追い込んだ。 |
2006 | タイムズ・ピカユーン(米ルイジアナ州ニューオーリンズ) | ハリケーン「カトリーナ」をめぐる一連の報道。新聞の印刷工場から避難した後も、残された資材を使って新聞の発行と報道を続けた。 |
2006 | サン・ヘラルド(米ミシシッピ州ビロクシ) | ハリケーン「カトリーナ」の発生後、被災地の人たちのために紙とネット上で報道を続けた。 |
2005 | ロサンゼルス・タイムズ | 徹底した取材により公立病院における医療問題や人種差別を明らかにした。 |
2004 | ニューヨーク・タイムズ(担当:デイビット・バーストウ、ローウェル・バーグマン記者) | アメリカの労働者の労働災害と、安全基準や法律を守らない雇用主の実態 |
2003 | ボストン・グローブ | 聖職者による性的虐待の実態。被害者への口止め工作や脅しなど。カトリック教会の世界規模での改革を喚起した。 |
2002 | ニューヨーク・タイムズ | 911同時テロの後、アメリカを襲った悲劇について幅広い取材と報道を続けた。被害者についても詳細に報じた。 |
2001 | オレゴニアン(米オレゴン州ポートランド) | 米国移民帰化局(INS)の構造的な問題を検証。撤退した取材と検証によって、外国人に対する粗末な扱いや虐待などを明らかにし、改革を促した。 |
2000 | ワシントン・ポスト(担当:キャサリン・ブー記者) | ワシントンの知的障害者グループホームでの入所者虐待やずさんな業務について報道。市の当局者を是正措置へと促した。 |
年 | 受賞者 | 報道内容 |
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1999 | ワシントン・ポスト | ワシントンの警察による危険な拳銃の扱いについての連載。十分な訓練や監督を受けていない警官が、銃を使用していた。 |
1998 | グランドフォークス・ヘラルド(米ミネソタ州イーストグランドフォークス) | イーストグランドフォークス市のその周辺を襲った大洪水をめぐる報道。有益な情報提供と写真。大洪水、竜巻、そして、火災のさなかに、コミュニティーを団結させるのに貢献した。新聞社の印刷所も被害を受けるなか、報道を続けた。 |
1997 | タイムズ-ピカユーン(米ルイジアナ州ニューオーリンズ) | 世界的な魚不足、漁業危機に関する連載報道 |
1996 | ニュース・アンド・オブザーバー(米ノースカロライナ州ローリー) | ノースカロライナ州で急増していた養豚業者の廃棄物処理による環境や健康リスクに関する報道 (メラニー・シル記者、パット・スティス記者、ジョビー・ワーリック記者) |
1995 | 英領バージン諸島新聞(ヴァージン諸島セント・トーマス島) | 英領バージン諸島の犯罪率の高さと、刑事裁判制度の関連についての報道。政治面での改革を促した。メルビン・クラクストン記者などの報道 |
1994 | アクロン・ビーコン・ジャーナル(米オハイオ州アクロン) | 地域社会の人種問題の検証記事 |
1993 | マイアミ・ヘラルド | ハリケーン「アンドリュー」に関する報道。読者に有益な情報を提供するととみに、被害を悪化させたずさんな予報や警報、建築基準などについて検証した。 |
1992 | サクラメント・ビー(米カリフォルニア州) | シエラ・ネバダ山脈の環境危機に関する検証記事 |
1991 | デモイン・レジスター(米アイオワ州) | レイプ被害報道への問題提起 |
1990 | ワシントン・デイリー・ニューズ(米ノースカロライナ州) | 地元の水道水に発がん性物質が含まれていた問題を追求 |
1990 | フィラデルフィア・インクワイアラー | 血液産業の闇を暴いた |
年 | 受賞者 | 報道内容 |
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1989 | アンカレッジ・デイリーニューズ(米アラスカ州アンカレッジ) | 先住民(ネイティブ・アメリカン)のアルコール依存症と自殺の問題 |
1988 | シャーロット・オブザーバー(米ノースカロライナ州) | 宗教家ジム・ベイカーと妻タミー・フェイが率いるキリスト教団体(PTLクラブ)による横領などの不正行為を暴いた |
1987 | ピッツバーグ・プレス | 飛行機のパイロットに対する政府の医療検査が不適切だった問題を追求 |
1986 | デンバー・ポスト(米コロラド州デンバー) | 行方不明児童の人数の中に、親権の争いや本人の意思での失踪によるものが含まれていた点を指摘した。 |
1985 | フォートワース・スター・テレグラム(米テキサス州フォートワース) | 米国の250人の兵隊がヘリコプターの設計ミスで死亡したことを暴いたスクープ |
1984 | ロサンゼルス・タイムズ | カリフォルニア州南部のラテン系(ヒスパニック)住民の増加を深掘り |
1983 | ジャクソン・クラリオン・レジャー(米ミシシッピ州) | ミシシッピの教育制度に関する連載 |
1982 | デトロイト・ニュース | 米海軍が、海外で亡くなった兵隊たちのことを隠していた問題 |
1981 | シャーロット・オブザーバー(米ノースカロライナ州) | 地元の織物工場で出た綿の粉じんによって、労働者たちが重い病気になった問題 |
1980 | ガネット・ニューズ・サービス(米バージニア州マクリーン) | 修道会への献金に関する連載 |